人と宇宙をつなぐもの

サイエンスの中でも,天文は人気の高い分野です。
星を趣味にしている人は少なくありませんし,「天文少年」も…
日本は世界で一番,プラネタリウムの密度の高い国です。

しかし,一時期は科学雑誌で世界最大部数を誇っていた日本の天文雑誌も,今はすっかり部数を落とし,おいていない書店も。
まぁ,出版業界自体,全般にこんな傾向はありますが,科学誌の落ち込みを見ていると,これが業界の冷え込みのみならず,市民の科学への興味の低下,いわゆる「理科離れ」「科学嫌い」の増加とも連動しているような気がします。

古来,宇宙は神秘の対象で,占星術が政治にも深く関わっていた時代もあるわけですが,科学研究の対象としても,未解明の部分の多い分野であり,ほとんど手の届かないものを対象にしていたわけで,他の分野の再エンストは,やや違う面もあります。
現在では,天文の研究者の数は多くなく,純学問としての興味が中心で,コストがかかって飯の足しにもならない,と言う批判もあるわけです。

しかし,人々が「科学」に夢を持てる,最後のフロンティアになるのではないか,とも思います。ライフサイエンスや医学,放射線物理学など,リスク管理,リスクコミュニケーションの必要な分野と違い,天文には,単純に夢を持ちやすいのではないでしょうか。

その一方で,天文学の最先端は,なかなか理解できない領域に行ってしまいました。天文の研究者は,他の分野の研究者に比べれば,市民に向けて語る人は多いと思います。市民の賛同が得られなければ研究予算が苦しくなる,と言う事情もありますが,今の世の中で,まだ支持者が多い,と言うのは幸福なことであり,その一端を支えているのが,「市民の語る研究者」ではないかと思います。天文分野以外で,私が会ったことのある研究者は,だいたい,市民に語ろうとしない。語ったとしても渋々だったり,伝え方が上手くなかったり。市民に語れる研究者なんて,1割もいないんじゃないでしょうか?……それと比較すれば,天文学者アウトリーチに関して,積極的でオープンな面が目立つわけです。

しかし,やっぱり,最先端の天文学は,アマチュアの「星が好きな人」からは,遠い存在。学校で教えることも型通りで,しかも,大学受験には「地学」を必要としない場合も多いので,なかなか興味が広がらない,と言う問題も感じます。
月の満ち欠けを学校で習っても,実際に月を眺めている小学生は,多くないのが現実です。

今,子どもたちに必要なのは,受験のための科学だけで良いのか?
本当に必要だったのは,科学に対する興味や,ワクワクするような体験だったのではないでしょうか。
子どもだけじゃありません。大人も,「科学リテラシー」と言う面では,惨憺たるものです。まぁ,月を眺めていても,お腹がいっぱいになるようなこともありませんので,今の社会は,科学がブラックボックスになっていて,結果だけ,研究成果だけ享受すれば良い,と言うシステムになってしまったのですが。

科学は宗教でも呪術でもない。実学であり,リアルなもの。

知らないことを知ると楽しい。
分からないことが分かると,さらに知りたくなる。
そんな,科学的関心の糸口を伝えることが出来るのは,もはや,科学者ではなくなりつつあります。


月が球体であることは,多くの人が知識として知っている。
でも,本当に球体なのか,確かめた人は,少ない。

「月の模様はなぜ,いつも,ほとんど同じなのか,説明できますか?」
「日食や月食は,どうして起こるのですか?」
ひとことで説明しろ,と言われると,大人でも戸惑います。


……だったら,直感的に分かるようにすればいい。
プロが教えない,天文学の入り口のことは,天文学のアマチュアたちが,少しずつ伝えればいい。

「誰かと一緒に月や星を見上げたい」
「たくさんの人に,月や星を見たときの感動を共有してほしい」

3D MOON PROJECTの出発点は,ここにあります。

「プロには出来ないことをやる」
「直感的に分かりやすく見せる」
「感動を共有する」

そんな,素朴で楽しいことを,やれないのだろうか?
天文学研究の中に居る人たちからは見えないアプローチで,天文の楽しさ,感動を伝えることが出来れば,星の世界を見る人は,もっと楽しんでくれるだろうし,科学の支持者も増えてくれるかもしれない。

天文学でない分野に居る者からの,ささやかなメッセージでもあります。

3D MOON PROJECTは,誰もが「伝える人」になることができます。
自分が体験して,感動したり,面白いと思ったことを語り,伝える。
口下手な人は,伝えるための映像素材などを作って,伝える。

そして,多くの人と,宇宙を見上げる感動が共有できたら,と思います。