地球から月の立体撮影をする

月は地球に一番近い天体。
と言っても,38万kmほど離れています。
人の目で,距離感があるのは,せいぜい何百mか,と言ったところ。

人が距離感や立体感を感じるのは,左右の目で,微妙に異なる角度から,ものを見ているためで,その微妙な違いを脳で「立体感」として感じていて,左右の目と観察対象の間に出来る,像のズレを作る角度を「視差」と呼びます。
CGによる立体画像……最近の3Dアニメ映画など……は,人工的に視差を与えてやっているのですが,月だって,立体感が認識できる視差が獲得できれば,立体視出来るはず。

このアイデアは大昔からあって,1851年には月の立体写真が作られていました。

その,視差の獲得方法は,秤動……いわゆる,月の「首振り運動」です。
月は一見,同じ面を地球に向けているように見えますが,微妙に向きがブレるのです。
これが秤動。
これを使えば,月を見る角度が微妙にずれている写真が撮れます。それを視差として利用し,立体画像に仕立てます。

1,2か月,あるいはそれ以上の時間を隔てて,同じ欠け具合の月を写し,1枚の立体画像に合成します。

しかし,この方法は月の全体像を立体視するのには向いていますが,拡大画像の立体視には,撮影条件がきわめて難しい,

そこで,地球の自転を利用します。

地球は言うまでもなく,1日に1回転しています。
北緯35度であれば,観測者は地球の自転により,1時間に1350kmぐらい動いています。
2時間で約2700km。
このズレを,視差として利用します。
このぐらいの間隔をあけて撮影した月を立体画像に仕立てると,10m弱ほど離れた位置からクレーターを眺めたような立体感が得られます。
実はこの撮影間隔の2時間ほどの間に,月齢も進みますし,月面の光の当たり具合も微妙に変化しますが,とりあえず無視します(立体視の際,脳が補償してくれます)。月齢のへ影響が目立たないように,あまり長時間の撮影間隔が開けられません。おおよそ2〜3時間間隔が良いと思います。

作例は「ステレオ月面写真」を参照してください。


また,別のアプローチとして,遠隔地で同時に月を撮影する手もあります。

月そのものの立体感でなく,周囲に対して,月の前後関係が見える立体画像も工夫できます。

数百km離れた2点で同時に月を撮影して,立体画像を作れば,星空に対して,月が前に飛び出る写真が出来ます。

また,地上の風景と月を同時に写し込む場合など,数十cm〜数mぐらい横方向に離れて地上の風景を撮影すれば,地上の風景が立体感を持って表現できて,それに対して,月は後ろに見えることになります。

いずれにしても,撮影機材や撮影条件に合わせて,試行錯誤をしながら,最適な立体感を見つける必要はありますけどね。



以上のような方法で,地球上から,月の立体画像が得られるわけです。

今では月にロケットを飛ばして,実際に立体視出来るところまで行って撮影したり,月の地形データも詳細に取得していますが,やはり,地球から見える月の姿そのままに,月が立体的に見えるのは,エキサイティングな体験です。

大きなスクリーンで,月の立体画像を眺めたろ木の「宇宙感」は,CGでは得られないリアリティと感動を与えてくれることと思います。